民芸家具とは、民衆の日常使いのために作られた家具のことで、日常生活に根差した工芸品の美しさを世に広めた「民芸(藝)運動」の中で生まれました。そのため観賞用の工芸品とは一味違い、人々の暮らしや風土から生まれた自然な美しさを感じることができます。手がけるのは著名な作家や職人ではなく、日本各地の名も無き家具職人。各地域に根付いた伝統や文化を活かしながら、家具職人の磨き抜かれた技によって作られる民芸家具は高品質で美しく、使い込むほどに味わいが深まる魅力的な家具として、国内外から高い評価を得ています。
民芸家具の特徴
実用性の高さ
民芸家具は「庶民の生活用品の中にこそ真の美がある」という思想のもと生まれた家具なので、高い実用性を誇ります。使いやすさを追求した造りや機能性は、生活空間に豊かさをもたらしてくれます。
高品質
家具作りに用いられる素材は国内産を中心とした上質な木材です。そして家具職人の手仕事による熟練の技、伝統的な製法、耐久性を高める仕上げ塗装を用いることで、一生ものとして愛用できるほど高品質な家具へと仕上げることができます。
美しさ
自然木の木目の美しさはもちろんのこと、時代に左右されない洗練されたシンプルなデザインもまた、民芸家具の美しさを引き立てる重要な要素となっています。さらにそうした美しさは使い込むほどに味わいが増し、ぐっと深まっていく木味からは温かみが感じられます。
民芸家具のメーカー・ブランドの種類
民芸家具メーカーは日本各地に様々ありますが、中でも代表的なメーカー・ブランドをご紹介します。
松本民芸家具
昔から和家具の名産地であった長野県松本市で誕生した家具メーカーです。池田三四郎が1944年頃に設立し、今も発展を続けています。松本民芸家具の最大の特徴は、和家具の技術と洋家具のデザインを融合させた独特のスタイル。そしてミズメザクラなど国産の無垢材を用いている点です。一般的な家具作りでは釘やネジを使用しますが、松本民芸家具では複雑な形状にカットした木材のみで組み上げていくという伝統技法「組手接手(くみてつぎて)」を取り入れているため耐久性が高く、木目を最大限に活かすことができます。さらに漆塗りやラッカー塗装で仕上げられることで上品な艶と味わい深さが生まれ、シックな雰囲気を漂わせています。
松本民芸家具はこれまで様々な家具を製造してきましたが、中でも力を注いだのがチェアで「ウィンザーチェア」や「ロッキングチェア」など数多くの名作を生み出してきました。
北海道民芸家具
1964年に大原総一郎が設立した北海道民芸家具は、松本民芸家具の技術や精神を受け継いだメーカーです。特徴は地元北海道産の樺(カバ)の木を主要材にしているという所。きめ細やかな木目と硬い材質を持つ樺材を長い年月をかけてゆっくりと乾燥させ、反りや歪みのない状態にしてから家具が組み立てられていきます。そうした手間暇を惜しまない丹精な家具作りは、木の美しさや上質さを際立たせています。見た目は松本民芸家具ととてもよく似ていますが、細かな所を見比べてみると取っ手の中央部分が凹んでいたり、樺材独特の温もりが感じられたりと、北海道民芸家具特有の魅力を味わうことができます。こうした北海道民芸家具のブランドは2009年から「飛騨産業」に継承していますが、その磨き上げられた技術や熱い思いは変わることなく大切に家具作りに反映され、多くのファンに愛され続けています。
九州民芸家具
元々は松本民芸家具の九州地区販売店でしたが、1961年に独立して民芸家具を製造するようになり「九州民芸家具」が誕生しました。高級民芸家具ブランドとしても知られており、主に欅材や桜材などの無垢材を用いて作られる家具からは上品さが溢れ出ています。オーダーメイドによる製造も数多く手がけてきました。松本民芸家具や北海道民芸家具に比べると、より「和テイスト」と「クラフト感」が強く感じられるどっしりとした印象を受けます。また、日本の伝統的な格子を巧みにあしらった和モダンなデザインも特徴の一つとして挙げられます。工房は惜しまれつつも2009年に閉鎖しましたが、その美しく高級感のある九州民芸家具は今も人気を誇り、これからますます希少性が高まっていくであろう貴重な民芸家具ブランドといえます。
仙台箪笥
江戸時代末期から続く宮城県発祥の民芸箪笥ブランド。当初から刀・衣類・貴重品などを仕舞う家具として重宝されてきた仙台箪笥もまた、民衆の日常生活から生み出された立派な民芸家具です。最大の特徴は豪華な意匠の手打金具で、箪笥一棹につきおよそ100〜200個ほどの飾り金具を施した姿は圧倒的な存在感を放ちます。金物は装飾的な要素だけでなく箪笥の強度を高める役割もあり、丈夫な造りをしている点も高い評価を得ている理由の一つです。仕上げには主に透明の漆を何度も塗り重ねる「生地呂塗り(きじろぬり)」が施され、上品な艶をまといながら、透けて見える美しい木目を際立たせています。平成2年に宮城県知事指定伝統的工芸品に、そして平成27年には経済産業省大臣指定伝統的工芸品にもなりました。そうした伝統的な造りやデザインは今も受け継がれ、高級感漂う上質な民芸家具として製造され続けています。
「仙台箪笥」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
岩谷堂箪笥
江戸時代中頃に誕生した岩手県の箪笥ブランドです。地域の財源を米だけに頼る現状を変えようとした岩谷堂城主の政策によって作られ始めましたが、明治時代に入ると人気を伸ばし、一般家庭の暮らしにも広まっていきました。岩谷堂箪笥も飾り金具に大きな特徴を持っており、仙台箪笥と同様に、裏から叩いて模様を立体的に作る「手打金具」が使用されている他、鋳型に鉄を流し込んで作る「南部鉄器金具」も使用されています。鍵を付けて金庫のように使用したり、階段としても活用できる「階段箪笥」や手軽に移動ができる「車箪笥」を作ったりと、機能性の高い箪笥で人々の暮らしに快適さを与えてきました。昭和57年には伝統的工芸品に認定されます。こうした伝統的な箪笥が今も製造され続けていることも特徴の一つであり、現代では箪笥の他にもモダンなデザインの書棚や座卓なども数多く生み出しています。
「岩谷堂箪笥」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
「階段箪笥」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
「車箪笥」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
民芸家具の素材と仕上げの種類
民芸家具によく使用される素材と仕上げ方法にスポットを当て、代表的な種類についてご紹介してきます。
欅材
強靭な耐久性・狂いの少なさ・明瞭な美しい木目を持つ欅は、古い時代から高級木材として和家具作りに用いられてきました。先述した仙台箪笥や岩谷堂箪笥でもよく使用されています。使い込むほど色味は深まり、木目は黒くハッキリと現れ、趣のある姿へと経年変化していきます。
屋久杉材
屋久島で育った杉の中でも樹齢1000年以上のものだけを「屋久杉」と呼び、長い年月をかけて育つゆえ耐久性は高く、木目はとても緻密で、自然の生命力が感じられる力強い個性的な表情をしています。現在は世界遺産に指定されているので大変希少価値の高い木材となっています。
唐木材
唐木とは、紫檀(シタン)・黒檀(コクタン)・鉄刀木(タガヤサン)などといったいくつかの東南アジア産の木材を総称した名です。材種は様々ありますが、どの木材も非常に重く硬い材質を持ちます。職人技で丹念に作られる唐木製民芸家具は艶やかで滑らかな仕上がりとなり、高級感や重厚感を漂わせています。
仕上げ塗装にもこだわりが光る!漆塗り
上質な民芸家具にはよく漆塗りが施されます。何度も丁寧に塗り重ねる作業となるため手間と高い技術力が必要となりますが、漆塗りによって家具は強力な塗膜に守られ、木目を引き立てた非常に美しい艶に包まれます。経年によって漆の透明度が増していく姿も楽しむことができます。
民芸家具の家具の種類
民芸家具には様々な種類の家具があります。収納力に特化した箪笥やサイドボード、棚が設けられた書棚や飾り棚、鏡台、ソファやベンチ、チェア、テーブル、デスクやライティングビューロー、照明など約20種類の家具を基本に、民芸家具メーカーそれぞれの特色によって古典的な和家具を再現したり、洋家具のデザインを取り入れたりしながら、多種多様な民芸家具を世に送り出してきました。
民芸家具の歴史
明治時代半ばになると日本は工業化が進み、量産品が人々の生活に浸透していきました。そんな中伝統的な手仕事が失われつつある現状に警鐘を鳴らそうと、柳宗悦らは1926年(大正15年)に民芸運動を起こします。それまでの工芸品のように鑑賞性だけに重きを置くのではなく、日常生活の実用品に「美」を見い出し、各地方の伝統工芸の価値を再認識するため民芸家具が作られるようになっていきました。「民芸」という言葉は柳宗悦が生み出した造語であり、伝統工芸・実用性・美しさを一体化させた「用の美」という価値観を広めていきました。そして民芸家具の普及は伝統工芸の復興や生活文化の向上に貢献し、現代でもその必要性は重要視されています。現在家具市場ではアンティーク品から現代のニーズに合わせた現行品まで、幅広い種類の民芸家具が存在しています。また、民芸家具をオリジナルにリメイクしたりペイントを施したりすることで、より親しみを抱き愛着を持つ人も多いようです。
民芸家具のあるインテリア
民芸家具は、和と洋どちらのテイストにもしっくり馴染むところが大きな魅力といえます。実用性にも優れ、使い込むほどに味わいが深まっていく姿を楽しむことは民芸家具の醍醐味ともいえます。