氷コップとは戦前の日本で多く作られ、かき氷などの氷菓に用いられたガラスの器です。氷を製造する技術が広まった頃に誕生したデザインで、茶碗のような器に太めの脚が付いた、高さがある器です。主に透明感のあるガラス製で、色や柄、形は様々なものがあります。
多種多様なデザインが特徴
氷コップは職人がまさに一つひとつ手作りしている風合いが特徴のガラス。氷コップにもプレスガラスによって製作されたものはありますが、安価な大量製産品が世に出回るようになるにつれ、徐々に人気が衰退していったようです。
現在では氷コップの復刻も行われており、その美しい佇まいは今なお愛されています。
この人気の理由の一つに、デザインや形、色合いが多種多様であるということが挙げられます。その色とりどりの華やかな様子から、氷コップは“和ガラスの華”と称されており、現在でも専門に扱うアンティークショップ、専門に集めるコレクターもいるほどの人気を博しています。
日本独自の発展を遂げた器、氷コップ
左はプレスガラス、右は吹きガラスで製作された氷コップ。
西洋のコンポートがルーツだといわれていますが、「氷コップ」はあくまで日本独自に発展を遂げたガラス器。職人が一つひとつ手作りする吹きガラスだけでなく、プレスガラスで作られた物もあります。
一般的には吹きガラスの方がデザインや細工などに繊細かつさまざまな工夫が施されており、価格も高価な傾向にあります。
また、アンティークショップなどで出回っているガラス製の氷コップは数万円する品が当たり前で、中には数十万円の値がつく氷コップも存在します。
多種多様な、形、デザイン、色合いが人気の理由
形状
氷コップの形には、主にラッパ型、碗型、なつめ型があります。
左から:ラッパ型/椀型/なつめ型
材質
また材質には主にソーダ石灰ガラス、ウランガラス、オパールガラスが使われています。
ウランガラスはブラックライトを当てると蛍光緑色に発光するという特徴があり製造数が少ないこともあって、希少価値の高い物です。
ブラックライトに当てると蛍光緑色に発光するウランガラス。
色合い
また、色合いは1つの器で1~3色です。
一つの氷コップの中でより多くの色を使っているほど、高価なものとされています。
文様
そして、氷コップの意匠を大きく左右する文様には、吹雪、水玉、ぼかし(乳白、その他)、糸巻き、千段巻き、象嵌、飛線、色被せなどが存在しています。
また、円盤型の小さなグラインダーなどを使って、ガラス表面にごく浅い彫りを入れて模様を描く、グラヴィールなどの技法が施された物もあります。
左から:グラヴィール加工/乳白水玉/乳白ぼかし
これら、形、文様、色味が複雑に組み合わされて1つの器が作られていくため、千差万別の氷コップが誕生していくことになりました。
名も無き職人の手によって作られた氷コップの数々
当時のカタログなどから、現在でもガラス製作を行っている、東洋佐々木ガラスや廣田硝子といったガラスメーカーが、戦前から氷コップを扱っていたことが確認されています。ですが、そういった記録からも、特定の作家の情報はあまり確認されていません。
氷コップは、いわゆるガラス工芸作家という人々が制作していたのではなく、無名ではあるが腕のたつガラス職人が製作していたと考えられています。そういった無名の職人たちの日々の試行錯誤によって、実に多くのデザインや色合いの氷コップが、生まれ、世に送り出されることになりました。
またこのような製作背景は、和ガラス全体に通ずると言われています。
美しい和ガラスの数々が、当時の名も無き職人1人1人の研鑽によって作られていたことを今に伝えるエピソードです。