クイーンアンチェアとは、18世紀初頭のイギリスのアン女王期に生まれた、クイーンアン様式の椅子のことです。
当時としては画期的な使いやすさを重視したシンプルな作りと、優雅な曲線美を活かしたデザインが多くの人の心を打ち、時を超え今もなお根強い人気を誇っています。
「クイーンアン様式」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
クイーンアンチェアの3つの特徴
特徴その1. 背もたれの造りとデザイン
一番最初に目に入るその印象的な背もたれは、中央部分に細長い背板を使用した「プラットバックチェア」という造りでできています。
背板の透かし彫りはヴァイオリンや花瓶などがモチーフとなっており、優美な曲線を描きながら上品な雰囲気を醸し出しています。
腰椎の部分には骨格に合うように滑らかなカーブを作ったり、ゆったり座れるよう背もたれを高くしたり、座り心地の良さを配慮した工夫がたくさん見られます。
特徴その2. クッション性のある座面
座面に分厚いクッションを用いている点も大きな特徴です。
クッション性があることで長時間座ることもできるようになり、これまでの板座とは格段に違う快適さに多くの人が魅了されました。
また座面部分のみを取り外すことができるので、普段のお手入れや張り替えの時も扱いやすく便利な作りとなっています。
特徴その3. 優雅なカブリオールレッグ
椅子の後脚は少し反った形状であるのに対し、前脚は緩やかにS字曲線を描く「カブリオールレッグ」という特徴的な造りになっています。
別名「猫脚」とも呼ばれるカブリオールレッグは元々フランスで生まれたものですが、クイーンアンチェアで取り入れているのはイギリス独自のデザイン。アカンサスや貝殻の模様に彫られた装飾はあるもののフランスに比べるととてもシンプルなデザインで、脚先も「パッドフット」などのシックな造りをしています。その華美過ぎない実用性のあるスタイルが多くの人に受け入れられ、その後のイギリス家具の基本となっていきました。
「カブリオールレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
クイーンアンチェアの種類
先述のように脚は「反った形状の後脚」「カブリオールレッグの前脚」「シンプルな造りの脚先」で構成されているのが基本となっていますが、背もたれや座面はそれぞれどのようなデザイン・素材の種類があるのでしょうか。早速見ていきましょう。
背もたれのデザイン
一見すると同じように思えるデザインも、よく見ると1つ1つに微妙な違いがあり、多種多様であることがわかります。
「クイーンアン様式=ウォールナットの時代」ともいわれ、素材にはよく木目の美しい丈夫なウォールナット材が使われました。
座面の素材
アンティーク品は座面を張り替えた状態で売られていることも多いですが、レザーや起毛のファブリックなど気品漂う素材が使用されています。
クイーンアンチェアの歴史
イギリスのアン女王が在位していた18世紀初頭、クイーンアン様式の建築や家具が数々誕生しました。
それまでの家具は貴族のために豪華絢爛に作られてきましたが、クイーンアン様式では華美な装飾は省かれ、機能性や実用性を重視したシンプルな造りとなり、小型化や軽量化も進みました。こうした造りとなった背景には当時の東西交易が関係しており、中国から伝来した健康的な姿勢を保つための椅子作りの技術がクイーンアンチェアに色濃く反映されているのです。
見た目の美しさにも余念がなく、バロック様式やロココ様式に影響された流れるような曲線的デザインや、繊細な彫刻による装飾を施すことで、優雅で優しい雰囲気を醸し出しています。
アン女王の在位期間は1702年〜1714年と短期間でしたが、「イギリスアンティークチェア黄金期」のはしりの時期として、その後の国内外の椅子作りに大きな影響を与えることとなります。
アン女王の退位後は再び装飾性に重きが置かれ、デザインや造りが変化していきますが、クイーンアンチェアにはクイーンアン様式でしか味わえない魅力がたくさん詰まっています。
細部にまで使いやすさに拘った美しいクイーンアンチェアは、当時の人々だけでなく今を生きる私たちまでも魅了し、現代的なインテリアとも相性のいい優れた椅子として愛され続けています。