スリムとは無縁のぽってり厚めのフォルムに、キッチン用品にしては持ちごたえがある重さ。でもそれでも、そんなところさえ愛着に思えてしまう不思議さが「ミルクガラス」にはありますよね。
以前の「アメリカンアンティーク雑貨の代表!ミルクガラス食器の魅力」では、ミルクガラスの本場アメリカのところから、万能な性質までをお話ししましたが、今回はその番外編というか、これまでスポットに当たっていなかった部分に着目していこうと思います。実はアメリカばかりでなく、イギリスでもミルクガラス食器が作られていたこと、ご存知でしたか?
今ではヴィンテージでしか見られない貴重なイギリスミルクガラスと、影に隠れたイギリスのメーカーのことをご紹介していきます。
目次
耐熱ミルクガラスの誕生、そしてイギリスへ
「熱への強さ」や「割れにくさ」が、現在は当たり前のようにが知られているミルクガラスですが、もちろん始めからそうだったわけではありません。
ビンテージ、そして新品のアメリカンミルクガラスで頻繁に目にする「パイレックス」の文字ですが、その名の理由は耐熱へこだわったのがきっかけでした。
パイレックスの生みの親は、アメリカのキッチン用品ブランドである「コーニング社」。まだパイレックスが作られる前の1908年に、「ノネックス」という膨張率が低い、温度変化耐性に優れたガラスを開発します。そんなコーニング社が、より頑丈なガラス製品を作るために最初に着手したのが “パイ皿” だったことから、「パイ」+「ノネックス」の造語で「パイレックス」と名付けられました。
1915年にコーニング社がパイレックスを商標登録。のちにイギリスで、パイレックスを作るためのライセンス契約を交わしたのが「JAJパイレックス」というメーカーでした。
JAJパイレックスに見るオールドパイレックスの種類
イギリスのJames A.Jobling社がコーニング社と手を結んだことで誕生した「JAJパイレックス」。
ただ、JAJパイレックスとしてパイレックスを製造していたのは、1921年からコーニング社の子会社となる1973年までのわずか52年間。その間、頑丈な耐熱ガラス食器として成長しつつ、イギリスならではのデザインのミルクガラス食器が作られたのでした。
今回はコレクターにも人気のオールドパイレックスを見ながら、アメリカのポップさとはまた違う個性に触れていこうと思います。
やわらかな色使いのMatchmaker
2色のストライプ模様が交互に並んでいるこちらは、Matchmaker(マッチメーカー)と呼ばれる1964年に発売されたシリーズ。カラーバリエーションも色々あるのですが、中でもやさしい色合いのブルーとグリーンの組み合わせがポピュラーなタイプとなっています。
JAJパイレックスに見られる食器の多くは、乳白色の美しさが映えるような、白地にモダンな絵柄が散りばめられたもの。アメリカから影響を受けつつも、イギリスらしいデザインを落とし込もうとしたのが見受けられる気がします。
レトロデザインが可愛らしいSunflower
素朴とポップのちょうどいいところを押さえた、バランスの良いSunflower(サンフラワー)。あれ?ひまわりなの?という疑問はさておき、少しくすみがかったレトロなイエローカラーが印象的ですよね。
絵柄をたくさん敷き詰めると派手さが出てしまうところを、ワンポイントで控えめにしたところに品を感じます。JAJパイレックスのビンテージの中で、日本では流通が少ないシリーズだと言われています。
スパニッシュなデザインがモダンなToledo
どこかサイケな、1960年代に作られたToledo(トレド)シリーズ。一見情熱的なデザインかと思いきや、よく見ると色使いはダークトーンが多めです。
トレドが作られた頃、ちょうどヨーロッパは産業革命後でモダンなデザインに移行しはじめた時期。そういった庶民の価値観の変化も、人気を後押ししたのでしょうか。
華やかでもやさしさのあるCottage Rose
まさしくイギリスらしいと言える、バラをモチーフにしたシリーズも、JAJパイレックスでいくつかの種類が製造されました。でもどこか、ボーンチャイナのエレガントな花柄とは違う、やわらかさが感じられるものだったのです。
バラをあしらったデザインの一つであるCottage Rose(コテージローズ)は、その名の通り田舎風の庭がテーマ。ピンクのバラとすずらんが、のどかなコテージガーデンを思わせますね。
実はコテージローズが作られていたのは、1970年からのなんと1年間。コレクターの中でも貴重なシリーズとなっています。
最後に
アメリカでパイレックスが発展していく背景作られていた、イギリスのミルクガラス食器たち。レトロでポップなミルクガラスとは毛色の違う、イギリスらしい心意気が見られるデザインでしたね。
今では作られていないという希少さも、なかば宝を発掘するような気分で楽しんでいただけたらと思います。