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透かし彫りとは

透かし彫り(透彫)とは、木や金属、石などをくり抜いて文様をつくり出す彫刻技法のことを言います。透かしの方法には「地透かし」と「文様透かし」の2種類があり、文様として表したい部分を残して周りの地を切り抜くことを「地透かし」、文様部分のみを切り抜くことを「文様透かし」と呼びます。
とくに中国やアジア地域で盛んな技法で、アジアン家具・アジアンアンティークなどでは、繊細で美しい透かし彫りが活かされたものを多く見ることができます。

透かし彫りの特徴

透かし彫りは、木材や陶磁器、金属、石材などさまざまな素地に施される技法です。いずれも文様や彫刻が細かいほど大量生産が難しく、一つひとつに作り手の技量やセンスが反映されています。芸術作品としても価値がある伝統技法と言えるでしょう。

木材の透かし彫り

透かし彫りは、木彫仏の光背や欄間などに多く用いられる技法ですが、部分的にくり抜いて文様を作るため光や空気の通りが良くなることが特徴です。建材においては、透かし彫りを行うことで通気性を確保したり、抜けの演出で部屋の圧迫感を和らげる働きがあります。

金属の透かし彫り

日本刀の刀身や鍔など彫金にも透かし彫りを見られます。鍔の透かし彫りは装飾的な意味合いを持つのに対し、刀身の彫刻は刀の作者や所持者の宗教観が反映されているものが多いのが特徴です。彫ることにより刀を軽量化する目的もありました。

陶磁器の透かし彫り

陶磁器の透かし彫りは、器の装飾性を高める目的があります。器を涼やかで洒落た雰囲気に演出するとともに、貫き模様から見え隠れする光や食材の趣きを感じる視覚的な美しさを楽しめる装飾と言えます。

服飾品の透かし彫り

くしやかんざし、帯留めなどの服飾品にも細やかな透かし彫りを施すことがあります。抜きの陰影が装飾品をより華やかに演出するのが特徴です。くしはつげ櫛に彫られることが多く、かんざしはつげのほかべっ甲、象牙などが好んで用いられました。

透かし彫りの歴史

透かし彫りのはじまり

透かし彫りの歴史は古く、日本においては1万年以上前の縄文時代までさかのぼります。有名な縄文土器に透かし彫りの細工がを施されたものが発見されており、これが国内の最古の歴史とされています。

仏教における透かし彫りの進化

奈良時代に入ると唐から入ってきた彫刻技法により一気に透かし彫りの文化が進化します。当時の日本では美術と宗教は非常に密接な関係にあり、現在に残る美術品のほとんどが仏教に関わるものです。特に仏像の光背に透かし彫りの技法を用いることが多く、東大寺法華堂の「不空羂索観音像」の光背は非常に緻密で技術の進歩を感じさせるデザインになっています。

戦国時代以降の透かし彫り

戦国時代に入ると仏教色が薄れ、豪華で壮大な芸術がもてはやされるようになります。この時代の透かし彫りは、武具や建材に見られるようになってきます。武具においては刀身の透かし彫り、建築として代表的なものが欄間です。欄間は主にお城のふすま上部に設置され、豪華絢爛といった言葉がぴったりな細やかで美しいデザインが特徴です。これらは、通気や採光を得る実用的な面と、建築の格式の高さを表現する役割も兼ねていました。

近年の透かし彫り

さまざまな産業で機械化が進むなか、一部の透かし彫りは機械でスピーディに彫刻することができるようになりました。しかし、髪の毛1本分ほどの緻密な彫りの調整が必要な文様の透かし彫りは、未だに人の手で丁寧に細工されています。
現在はより精緻化された陶磁器や、シルバーリングやピアスなどの貴金属に施された透かし彫りが人気を博しています。
今でも透かし彫りは、高度なテクニックが必要とされる繊細な技法です。伝統技法としてだけではなく、アートのひとつとして受け継がれ進化しています。

日本の透かし彫りの種類

地透かし

動植物や四季の風景、架空の生物などが生き生きと表現されます。刀の鍔の地透かしは機能性を損ねないよう浅彫りのものが多いのに対し、欄間などの建材に彫られるものは奥行きがあり躍動感があるのが特徴です。中には本来の枠から飛び出ているような臨場感あふれる彫刻もあります。

文様透かし

文様透かしはパターン化されたやや小ぶりのデザインが多いのが特徴です。円やしずく型、多角形などの幾何学模様をリズミカルに彫ったものや、梅や桜といった花の形に抜いたものも見られます。陶磁器や金属に施されることが多く、平面的でどちらかというとシンプルな仕上がりです。

伝統的な透かし彫りの技術

籠目透かし彫り

薩摩焼に施す透かし彫りの一種です。主に香炉に用いられますが、現在はランプシェードや花器、茶道具などにも加工されています。その名の通り、素地を竹で編んだカゴのような文様にくり抜いていきます。非常に緻密な彫り模様であり、この技術を持つ陶工は数名まで激減しています。

井波彫刻

富山県南砺市井波地区で作られる木彫刻であり、透かし彫りの欄間が有名です。自然界の風景や動植物、また龍や獅子など空想の生き物をダイナミックに生き生きと表現した彫刻が特徴です。これらの透かし彫りをノミだけで作る伝統彫刻です。

木目透かし彫り

木目の年輪に沿って彫りぬくことで、文様を浮かび上がらせる技術です。柾目板を使用し柔らかい夏目を部分的にくり抜き、固い冬目を残すことで文様の濃淡を描いていきます。冬目を残すことにより表現される霞がかったような繊細な透け感が特徴です。

蛍手

「蛍手」は文様透かしを応用した技法です。陶磁器に施すテクニックで、細かな文様透かしを彫りぬいた後に、釉薬を流し透かしを釉薬で塞ぎます。抜いた部分は釉薬のみとなり、透明感のある仕上がりです。光だけを通す文様が美しく、また器の中身がこぼれることがないので機能的でもあります。

透かし彫りが見られる伝統工芸

木工芸

  • 江戸木彫刻
  • 大阪唐木指物
  • 井波彫刻
  • 大阪欄間

陶磁器

  • 常滑焼
  • 三川内焼
  • 平戸焼
  • 信楽焼
  • 有田焼
  • 波佐見焼
  • 薩摩焼

服飾品

  • 奈良べっ甲
  • 江戸鼈甲
  • なにわべっ甲

透かし彫りの文様

透かし彫りのモチーフは純粋に飾りということもありますが、多くは文様に厄除けや願い、縁起物の意味合いを持たせています。

寒い季節も枯れないことから、長寿、不老不死の意味を持つ
成長が早いことから、子孫繁栄の意味を持つ
春の初めに花を咲かせることから、生命力、華やかさを意味する
一斉に咲き誇る姿から、繁栄、豊かさを意味する
火伏せの願いが込められており、家屋を守る意味合いを持つ
鳳凰 つがいの吉兆となる鳥で、夫婦円満を願う縁起物
物事の本質や先を見通し、幸運をつかむことを意味する
虎は行った道を帰ることから客人が再度来ることを意味し、商売繁盛の縁起物
籠目 古くから邪気払い、魔よけの意味を持つ
青海波 透かし彫りにおいては簡略化された波模様が多い。吉事に用いる。
正三角形が並ぶ幾何学的な文様。厄除けの意味を持つ
七宝 同じ大きさの円を円周1/4ずつ重ねてつなげる文様。どの方向にも広がることから縁起が良いとされる。
唐草 蔓が四方に伸びていくことから、長寿や子孫繁栄の意味を持つ縁起柄

世界の透かし彫り

透かし彫りの文化は日本だけではなく、世界各地で見ることができます。日本の透かし彫りの文化に深く影響を及ぼした「中国」の他、「バリ」などアジア圏の文化、そしてヨーロッパ圏の文化などが代表的です。

中国の透かし彫り

日本の彫刻に大きな影響を与えたと前述した「中国」の透かし彫りは、紀元前6世紀頃にはその技法を用いていました。例えば薄い材料を透かし彫りにして作った工芸品の記録があります。

漏窓

中国の透かし彫りといえば、まず代表的なものが漏窓です。漏窓とは枠内全体に透かし彫りを施した窓で、庭の景色を透かして見せる額縁のような役割を果たしています。これらの窓は、換気、採光といった機能だけでなく、装飾品としての意味合いも持ちます。漏窓に用いられる文様は幾何学的なものから、縁起物とされたモチーフ、さらには故事に由来するものなど種類に富んでいます。

白檀扇子

扇子の文化は日本発祥で、意外にも中国では日本の扇子を真似て作ったものが始まりと言われています。そんな中、中国で独自の進化を遂げたのが「白檀扇子」です。
蘇州の伝統工芸品であり、その名の通り白檀で作られた扇子です。白檀の持つ甘い芳香と細やかな透かし彫りが特徴の扇子で、高級扇子として人気があります。

バリの透かし彫り

バリ島では門や壁の装飾、置物などさまざまな場面で透かし彫りの技術を見ることができます。特に目立つのが、石材、木材の透かし彫りです。バリの彫刻は神話に基づいたデザインが主流でしたが、最近は宗教色を抑えた植物のモチーフも増えています。

ストーンカービング

バリ島のストーンカービングに使用されている石材は、火山性の砂岩であり柔らかく彫刻が施しやすいのが特徴です。これにより、他の地域ではあまり見られない石材の透かし彫り作品を産出しています。多くはレリーフや石台などに加工され、風景に抜け感を出す効果があります。バリ島の職人たちが一つひとつ手で彫り上げて仕上げています。

ウッドカービング

バリ島のウッドカービングは、15世紀にジャワ島から伝わったものです。石材と異なる崩れない材質のため、より細やかな表現の物が多くなっています。地透かしの作品が多く、文様にはさらに彫刻を重ねて立体的に仕上げています。レリーフの他、ミラーや額縁、照明器具、家具などにも透かし彫りが用いられています。

ヨーロッパの透かし彫り

ヨーロッパで繊細な透かし彫りが家具などに取り入れられるようになったのは17世紀後半からと言われています。優雅な印象の透かし彫りは椅子の背もたれや額縁などに用いられ、ヨーロッパの生活を彩りました。イギリスのアンティーク家具などに多く見られます。

ピアスドカーブ

彫刻的な立体感があり、くり抜かれている部分があるものを英語で「ピアスドカーブ」と言います。主に植物など有機的なデザインが用いられ、モチーフを曲線的に生き生きと表現しているのが特徴です。椅子の背もたれやキャビネットの装飾などで見られます。

ピアスドフレットワーク

「ピアスドカーブ」とは対照的に平面的にくり抜いた透かし彫りを「ピアスドフレットワーク」と呼びます。どちらかというと幾何学的な模様のものが多く、厚みの少ない板面などに好んで用いられました。テーブル脚部や、ガラス窓の装飾など平面が適する部位の装飾に使用されることが多いです。

フィレンツェ彫り

フィレンツェ彫りとはイタリアフィレンツェの伝統技法で、貴金属に施す彫刻です。金属に浅い彫りを入れたり、糸鋸を入れて透かし彫りにしたデザインが特徴です。透かし彫りは髪の毛ほどの太さの糸鋸を使用し、非常に繊細な文様を描いていきます。
見た目が華やかで涼しげなだけではなく、ジュエリーの軽量化の役割も果たします。

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