煎茶道具の中でも、比較的ポピュラーな存在である茶托。
茶碗の下に敷く少し地味な存在と思いきや、様々な素材や装飾を用いて作られたバラエティ豊かなものでした。
この記事では茶托の歴史や著名作家、使われている素材の種類などをご紹介しながら、その価値に触れていきます。
和のコースター、「茶托」
茶碗の下に敷く茶道具「茶托(ちゃたく)」。
今風の言葉で置き換えるなら「コースター」あるいは「カップソーサー」といった感じでしょうか。
茶道の流派によっては「托子(たくし)」「茶台(ちゃだい)」あるいは「茶托子」「納敬(のうけい)」と呼ぶ場合もあります。
江戸以前の茶席では、この茶托が使われることはなく、茶碗は直接お盆に乗せて運ばれていました。
それが中国からさまざまな器が伝来するようになると、その中の杯台が転じて、現在の茶托につながったといわれています。
茶托はもともと錫製だった?
材質も形状もさまざまですが、現在使われている茶托は多くが木製で、木地の木目を活かしたものから、
鎌倉彫のような彫りを施したものまで多種多様で、漆器に仕上げた品もあります。
ただ先に書いたように、中国から伝来した当初は錫(すず)製が多かったことから、骨董品の茶托には錫製が多いようです。
このような歴史的な背景からも、茶席において高級な茶を入れる場合、あるいはより位の高い客人をもてなす際には、
錫製の茶托が好んで使われるようです。
錫以外の金属も
もちろん、その他の金属である、金・銀・銅で作られたものや、藤や竹などの植物でも作られたものもあります。
画像は銅製の茶托で、左は紫斑銅と呼ばれる銅に紫の模様を浮かび上がらせる技法を使ったもの。
右は、玉川堂の紫金色と呼ばれる着色方法のもので、銅を叩いて小さくしていく特殊な技法で作られているため、独特の鎚目が特長です。
同じ銅製でも技法や製造方法によって様々な色合いや質感を見せています。
形状もさまざま
形状だけでなくデザインも様々なものが。左はめだか、右はコウモリがモチーフになっている。
丸い円形が一般的な形ですが、楕円形、小判型、舟型、角形(四・六・八)などがあり、
たいらな茶托だけでなく、特に小判型や舟型などの立体的な形状のものも多く、
そのほか花や瓜をモチーフにした形状の品も見られます。
とくべつな茶托、「天目台」
茶碗の下に敷く敷物ということで、どちらかという脇役的な存在ですが、中にはかなりの存在感を出している品もあります。
それが、とくべつな茶托「天目台」です。
天目台は、高杯のような形状で、長く作られた高台が浅い椀を支える形状です。
高杯と天目台が異なる部分でいえば、茶碗を乗せる皿の中央に、さらに小さなお椀がついていることです。
ここ茶碗をはめ込むようにして乗せると、茶碗が安定します。
他の茶托を使う時よりも、高い位置に茶碗が据えられる様子から、「貴人台」とも呼ばれており、位の高い人だけでなく、
神様や仏様にお茶を献上する場合などでも使われています。
先祖代々伝わるような大きな仏壇などでも、この天目台形の茶托は多く使われているようです。
茶托の有名作家、秦蔵六
素材によって作家も変わってきますが、中でも秦蔵六(はたぞうろく)の銘は有名です。
同家元は江戸後期に京都で誕生した金工作家であり、現在の六代目に至るまで、京都金属工芸の最高峰と呼ばれています。
また、歴代の将軍、天皇陛下、その他重鎮の印鑑製作などを手がけてきたことでも知られています。
そんな秦蔵六が得意とする技法は、蝋型鋳造(ろうがたちゅうぞう)。
秦蔵六の作品は、この蝋型鋳造の利点を活用した、精緻な彫刻や掘り込みが特長です。
この「蝋型鋳造」方法について詳しく知りたい方は、
「RAFUJU MAG 辞典「鉄瓶」ページ内、「高岡鉄瓶」で詳細を紹介しています。
骨董品としての茶托
骨董品としても人気がある茶托。中でも先に紹介した秦蔵六の銘が入っているもので、
古い年代の家元の品であれば、かなりの値が付くとされています。
また、茶托の元相ともいわれる中国から伝来された、錫製の茶托も骨董品として高値で取引されています。