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クイーン・アン様式とは

クイーンアン様式とは18世紀初頭のイギリスのアン女王期に生じた装飾美術の表現形式で、家具や内装に使用されます。直線的で重厚な装飾を多用した前様式に比べ、小型・軽量化されて快適性が向上します。豊麗荘重なフランス・バロックに影響された流麗な曲線や装飾を有しつつ、軽快さや快適性を備える比較的簡素・実用的な様式で内外に影響を与えました。

クイーン・アン様式の家具、その特徴とは?

クイーンアン様式 家具

1710年頃から現れたとされるクイーンアン様式は、一般的に優しさが感じられる意匠で、その家具は前代様式の美しさを組み合わせて作られた、精巧かつ機能的なものでした。装飾を優先し、使い勝手を犠牲にしてきたそれまでの家具とは異なり、造形美と機能性を併せたクイーンアン様式による家具は、英国の国民性に適った最初の家具ともいえます。家具の材料は輸入のウォールナット材のほか、国産材も使われ厳選されるようになり、装飾が少なくなっているのも特徴です。

クイーン・アン様式の「チェア」

クイーンアン様式期のチェアは、背板が人の背の形状に合うよう曲面加工され、体重を透かしで作った板で支えるため、丈夫な木材で作られるようになっていました。

「スプラット・バック・チェア」

スプラット・バック・チェア 特徴
スプラット・バック・チェア

「スプラット」はチェアの背もたれ中央に付けられる背持たれのこと。
クイーンアン様式のアームチェアは、優雅な膨らみのある曲線枠と、花瓶形の板がつく背もたれ、厚いクッション、そしてS字曲線のカブリオールレッグと後方に反る後脚をもつデザインが特長です。また、ロココ様式に特徴的な、脚の膝(ひざ)や座の幕板(まくいた)、正面の貫(ぬき:横支柱)等への帆立貝形の装飾彫刻も流行しました。
装飾は、猫脚の膝に貝殻やアカンサスの葉飾りの彫刻があるくらいのシンプルなもので、軽さや座りの機能を重視したダイニングチェアとなっています。

「クローアンドボールフット」

クローアンドボールフット とは

クローアンドボールフットは、猫脚(カブリオールレッグ)の脚先に見られる装飾です。
龍や獅子、鷹の手が玉を掴んだデザインで、18世紀当時に製作された家具の中には大変精巧に作られたものが多く見られます。
また、チェアだけでなくキャビネットなどにも使われています。

カブリオールレッグ 特徴

カブリオールレッグの脚先の種類には、他にも「パッド・フット」と呼ばれる脚先にパットがついたようなデザインの物や、ゴルフクラブのような形をしたものなどもあります。

「丈夫に」「美しく」進化を遂げたクイーンアン様式のチェア

クイーンアン様式 チェア
また、意匠設計技術の向上などによって強度や安定感が向上したため、足元の脚貫が不要となりました。
ただ、このタイプの椅子は急速に廃れ、座や背を布で張り包みにした豪華な椅子に代わられます。

「ウィング・チェア」

ウィング・チェア とは

現在の「ハイバック・チェア」の原形となる、背もたれの左右に袖がついた、大型の安楽椅子「ウィング・チェア」も登場しました。

「リーディング・チェア」

図書室や書斎で使われる肘置きと書見台が付く風変りな読書椅子「リーディング・チェア」もこのころに作られていたチェアです。

クイーン・アン様式の「チェスト」

「トール・ボーイ(高箪笥)」

一方、このクイーンアン期までに部屋や内装の変化も起こり、大型の高窓や暖炉、玄関口などが設けられはじめます。
それらに合う、背の高い「トール・ボーイ(高箪笥)」と呼ばれる、曲線脚等をもつチェストも流行します。

また、トールボーイの中には軒蛇腹(コーニス)や、漆塗り・蒔絵等が施された豪華な中国風(シノワズリ)のものも見られます。
これは、当時盛んになっていた喫茶に関連する家具とされます。

「ローボーイ」

ローボーイ とは

ローボーイは日本でいう化粧箪笥のような役割で使われていました。現在ではローボーイという名前で紹介されるほかにも、
コンソールテーブルやサイドチェストに分類されていることもあります。

クイーン・アン様式の「テーブル」

「ゲームテーブル」

クイーンアン時代に登場したテーブルの一つにゲームテーブルがあります。
その名の通りカードゲームをするために作られたもので、フランスでもルイ15世時代に登場しています。

ゲームテーブル イギリスイギリスアンティーク ゲームテーブル

天板は折り畳み式になっており、引き出しやロウソクタ立てなど、ゲームをする際に必要になる収納が付いています。

時代の空気を感じる、ロココ様式を由来とした装飾

彫刻等の装飾は、全体的に控えめですが、フランス・ロココやオランダ由来のものが多く、その他には中国風のものがあります。
(オランダの影響も窺えることから、前代のウィリアム・アンド・メアリー様式共々アングロ・ダッチ様式に分類されることもあります。)

ロココ様式 特徴装飾の代表的なモチーフには、貝殻やアカンサスの葉飾りがあります。
そのほかにも渦巻、葉、花、風景、動物、トロフィー、中国風人物や風景等が見られます。
パーケット テーブルまた、彫刻以外の装飾には、寄木細工(マーケットリー)や象嵌(インレイ)、板貼り(ベニアリング)、漆塗り、蒔絵などがあります。

家具に使われた木材の種類

当初ウォールナットが多く、その後マホガニーが主流になります。その他にはブナ、楓、松、杉、アッシュ、チェリー、ポプラ等が使われていました。

ウォールナット マホガニー

左/ウォールナット 右/マホガニー

クイーンアン様式の歴史

快適性を求めた家具づくりの始まり

1702年、前王ウィリアム3世の死去をうけ、アン女王がイングランドやスコットランド等の王位を継承します。女王は前年にヨーロッパ大陸で始まったスペイン継承戦争にマールバラ伯を派遣して勝利を重ね、北米での戦争も優位に進めました。
1707年にはイングランドとスコットランドを合併し、現在の英国の元となるグレートブリテン王国を成立させます。こうした情勢によりアン女王期のイギリスは飛躍的な発展を遂げることとなりました。前世紀後期の名誉革命以来の王政安定もあり、上流以外の階層も発展を始め、快適性や優雅さを備えた中級家具の需要が高まり、その流行を促します。

わずかな間に確立されたクイーン・アン様式

アン女王期(1702-14)はわずか12年という短い期間で終了します。
ですが、クイーン・アン様式自体は18世紀中頃まで続くことになります。また、曲線の脚や脚先などの部分は、チッペンデール様式(1740-65頃)にも採り入れられています。

クイーンアン様式 歴史

クイーンアン様式の影響はアメリカにも

1720年代から北米植民地のアメリカにもクイーンアン様式が伝わり、現地の経済発展や職人移民の増加等により、家具や内装共々、人気を博すようになります。その流行は1730年代から同50年代まで続き、その後も独自の進化や地方性を帯びるなどしつつ、現代まで愛されることとなりました。

時代はジョージアン期に

1714年にアン女王が没し、ジョージ1世を初代とするジョージアン期が始まりました。
曲線の脚や脚先などの部分的にクイーン:アン様式は受け継がれていましたが、次第に装飾性や線の太さ、豪華さを増してゆくこととなります。
そして1720年代からはマホガニー材使用の流行や、ウィリアム・ケント様式等を含むアーリー・ジョージアン様式が現れることとなりました。

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