レトロ看板とは、主に屋外用に使用される看板の一種。明治・大正・昭和中期まで商品を宣伝手法として用いられました。かつて街頭や商店など、日常的なあらゆる場所で見られたものの、新聞やテレビなどのメディアの発達によって衰退。現在では昭和の街並みを象徴するレトロアイテムとして、ヴィンテージやアンティーク市場で注目を集めている存在です。
レトロ看板の特徴
レトロ看板は、大きくわけて3つの特徴があります。一つはブリキやトタン、ホーローといった工業的な素材、二つ目は正方形や楕円、長方形などの多様な形、そして三つ目が目を引く色鮮やかなデザインです。
あとにも触れますが、日本の看板はもともと木製や布で作られていました。しかし、明治時代以降になると文明開化の影響で西洋文化が伝来。看板にガラスや金属が用いられることが増えます。その中でも最も代表的なのが、ホーロー製看板です。レトロ看板の代名詞でもある「ホーロー看板」は、屋外でも耐えられる仕様で、広告媒体として大変重宝されました。明治に登場して以来、昭和中期頃に全盛期を迎え、その後広告の主体がマスメディアに変わるまで、ホーロー看板は広告の主役を張っていたのでした。
また、レトロ看板は電信柱や住宅地の民家など、街中のあらゆるシーンで掲げられており、人の目を引くためにさまざまなデザインが編み出されたのも特徴です。意匠が凝った文字フォントやユニークな形、企業のロゴのほか当時人気だった芸能人の絵を起用したものなど、実にさまざまな。カラフルでハイカラなデザインは、単に広告としての機能にとどまらず、街を明るく彩る役割も果たしたといえるでしょう。
レトロ看板の歴史
看板のルーツは奈良時代
レトロ看板のルーツを探ってみると、なんと奈良時代にたどり着きます。当時の日本では、701年に制定された「大宝律令」には、“都で毎月開く市には、商品を標識で記すこと”という決まりが定められていました。しかし、当時の日本ではまだ「看板」という言葉はなく、「標牒(ひょうちょう)」と呼ばれる店の標(しるし)を書いた薄い木札を店先に掲げていたようです。これが今でいう看板の役割を果たしていたといえるでしょう。しかしながら、当時の日本人は文字を読める人は少なかったため、商品の絵を描いたものや店先に品を並べるスタイルが多かったようです。
その後、平安時代になると暖簾が登場。鎌倉末期には「簡板(かんばん)/もしくは鑑板」と呼ばれる文字が書かれた竹や木の札が使われはじめました。そして時代が進むにつれ、簡板や暖簾には屋号や商品名なども入れられるようになり、安土桃山時代末期~江戸時代にはこのスタイルが定着したとされています。
江戸時代で一気に進化を遂げた看板
江戸時代になると、鎖国の影響や幕府の改革方針もあり、国内の消費活動は盛んに。民間の商業活動はますます活発になり、看板もこれに伴って発展していきました。
商業の舞台である京や大坂、江戸では、業種や職種ごとに様式が定型化されます。文字看板や絵看板のほか、夜間の屋外でも使用できるあんどん型やちょうちん型など形も多様になっていくのでした。次第に商店らは広告として大金をかけるようになり、金銀箔、蒔絵、鍍金などを施した豪華な看板も現れるのでした。
明治時代以降、看板の進化は加速
明治(1868年~)に入ると、商圏がますます拡大。看板は、店頭だけでなく通行人を対象とした「企業看板」が普及します。その素材も従来の紙や木製に加え、舶来素材のブリキやトタンにペンキを用いた近代的なものが現れました。明治末ごろには急速に発達し、看板屋の活動も活発になっていきます。そしてこのころ、ついに「ホーロー看板」が登場。近代日本の看板を象徴する存在である琺瑯(ほうろう)製は、塗装や印刷可能、光沢があり、しかも水や火にも強い。屋外でも気兼ねなく使うことができたホーロー看板は、間もなく看板の主流となりました。色々な商品やサービスの看板が、様々な形状や意匠で大量に作られ、街中に貼られていったのです。
そしてホーロー製看板は、明治から昭和にかけて栄え、昭和中期ごろ全盛期を迎えます。しかし、昭和50年代(1975年~)になると、徐々に衰退。理由としては、新製品が生まれるサイクルが早まったこと、住宅事情の変化で看板を貼る場所がなくなったこと、そしてマスメディアの登場によって広告の主流が新聞やテレビ変わったことなどがあげられるのでした。
コレクションしたいレトロ看板。誰もが知るあの企業の名も
経済成長や時代の変化に伴って、次第に姿を消していったホーロー看板たち。しかし近年は、その時代を象徴するレトロな姿が、幅広い世代から人気を集めています。
ホーロー看板には多くの種類があり、形も大きさも宣伝内容もさまざま。薬、食品、衣料品、日用品、化粧品、電化製品、乗り物など、かつてはありとあらゆる企業が看板を製作していました。ちなみに当時は、企業の営業担当などが個人客や商店に直接出向いて看板を手渡していたこともあったようです。広告代理店が宣伝を作る現代には想像しにくいですが、それだけアナログな時代だったことを、レトロ看板は今に伝えてくれます。
著名なものには、仁丹、中将湯、ケロリン、ボンカレー、オロナミンC、福助、菅公、キンチョー(金鳥)、アース、オロナインなど。今も現存する商品も幾多あり、いずれも現代のものにはない独特のレトロな雰囲気には思わず「懐かしい!」「レトロ!」と感嘆せずにはいられないでしょう。
広告媒体としての役目は終えしまったホーロー看板ですが、現在はレトロ看板の名でインテリアアイテムとして、レトロファンを魅了し続けています。