エインズレイ(Aynsley)はイギリス中南部の窯業地ストーク・オン・トレントで発祥した、陶磁器メーカーで、
18世紀後期から現在まで世界中で認めら、愛され続けている陶磁器ブランドです。
エインズレイの特長
●イギリスの伝統的なモチーフと、柿右衛門など東洋の影響を感じる繊細で華やかな花や果実柄。
●特別なボーンチャイナ(骨灰・軟質磁器)によるディナーセットなどの高級磁器。
●高度な職人技による手作業での造形とペイント。
この記事では、エインズレイの時代の変化を捉えた堅実な物づくりの歴史を辿りながら、美しい食器の製法やデザインもご紹介して行きます。
「手作業」こそが最大の技術。エインズレイの技法
エインズレイの技術的特徴は、現在も手作業が重視されることです。
それは、材料の調合・型への流し込み・部品接合・表面調整・転写紙の貼付けに至るまでの全てに及びます。
また、上絵の色毎に温度を変えて焼成することも行なわれます。
それらは、エインズレイが誇る伝統の積み重ねと、高度な職人技により成されています。
器の種類
エインズレイの器種には、茶器・酒器・食器・壺・花瓶等のほか、プレート・彫像・置物・人形(フィギュリン)・時計・優勝杯等の様々があります。
絵柄・デザイン
その様式・意匠には、銀色のラスターウェア、薔薇や東洋的風景を青一色で描いた中国青花(せいか。染付)風、
セーヴル風の金彩濃紺地、写実・浪漫的な細密画が描かれるロココ式、古代ギリシャ風の連続紋等が用いられた新古典主義式、
抽象的草花紋のアールヌーボー式、シンプルかつ洗練された美しさをもつアールデコ式等があります。
エインズレイが作る、特別なボーンチャイナ
基本となる白磁は、骨粉を51パーセント以上配合して最適化を図った「ファイン・ボーンチャイナ」を使用。
エインズレイの美しく堅牢な器胎はこれにより実現されています。
成形はハンドキャストと呼ばれる手彫りの鋳型が用いられています。
装飾も手作業を惜しまずに
絵付けは手描きのハンドペイントとシルクスクリーンによる転写を採用。
転写は転写紙を手貼りする「ハンド転写」という創業時からの技法が用いられ、また同じく古式の霧吹き技法による色付けも行なわれています。これは釉薬が乾く前に不要部を布で拭って仕上げられています。
また、金彩に酸をかけて模様を彫り込む独自開発のアシッド技法も特徴的。
世界で初めて製作されたという磁器陶花は、アラビアゴムを混ぜた生地で花びらを作り、焼成後に絵付け・再焼成して仕上げられます。
オーチャードゴールド、ペンブロックバードなど、エインズレイの代表作
初期からの定番で黄色地に葡萄やリンゴ等の果実を描き、全体を黄金調とした食器「オーチャードゴールド」、
エインズレイ2世が東洋陶磁収集家ペンブロック伯爵を偲んで名付けた柿右衛門的花鳥紋白磁の食器「ペンブロック」やその花瓶の「トールアイリス」、
1920年発表でクロッカスの花を浮彫で散りばめたクロッカス・シェイプの食器「ローズデール」のほか、
「イングリッシュローズ」「エリザベスローズ」「チェリーブロッサム」「エデン」「イングリッシュバイオレット」「コテージガーデン」等があります。
エインズレイのはじまり
良質の陶土に恵まれたイギリス中南部ストーク・オン・トレントに、地の利を活かして各窯が台頭しはじめたのは18世紀ごろといわれています。
炭鉱経営者でエインズレイの創業者となるジョン・エインズレイもこの窯業ブームに目を付けた一人でした。
ジョンは当初趣味であった陶器づくりを本格化・事業化する為、1775年に窯を開き、その翌年にはフリントストリートにも窯を開きます。
手彩色や銅版で絵柄を転写したティーポットやビールカップ等の陶器を手がけます。
また、銀のラスターウェア(金属光沢陶)を導入し、その専門窯として名をあげました。
最新のニーズを読むことに長けたエインズレイ2世
ジョンの孫、ジョン・エインズレイ2世は、19世紀半ばに同じストーク・オン・トレントのスポード窯がボーンチャイナの改良に成功すると、それを取り入れ、同じく優良なボーンチャイナの製造を目指し始めます。
そして、喫茶の習慣が一般に定着する世間の流れに合わせて、ティーセットを発売し成功を収めます。
●エインズレイが作った陶花
エインズレイは1860年代にヴィクトリア女王からの注文により、世界で初めてボーンチャイナの陶花を作ったとされます。
陶花とは書いて字の通り陶磁器で出来た花のこと。食事中に花びらが落ちることのないよう、陶磁器の花を飾ったのだとか。
最高の環境で、最高の食器を作り出す
1861年には、エインズレイ2世の設計とみられる3階建ての新工場「ポートランドワークス」が開設されます。
イタリア様式とジョージ朝様式を採り入れたエインズレイらしい気品ある外観で、採光等の作業性も考慮され、
効率的で快適なボーンチャイナ製作の環境が用意されました。
また、エインズレイ2世は、それまでの功績が認められ、1886年から1890年までロングトン市長も務めます。
1888年にはロングトン・クイーンズパーク開設に尽力した功績により、園内にエインズレイ2世の名が入った記念碑も建てられました。1896年にヴィクトリア女王が在位60年記念を迎えると、エインズレイは女王の肖像画を描いたボーンチャイナのプレートやカップ、ソーサーを製作します。
ロイヤルファミリーに愛され続けるエインズレイのディナーセット
20世紀に入ると自動車運搬が導入され工場内の作業効率も格段に向上しました。
1931年にはチューリップシェイプと呼ばれるアールヌーボー様式の美しいカップ等がメリー女王の為に作られます。
1947年のエリザベス王妃とフィリップ王子の成婚時にはエインズレイの「ウィンザーシリーズ」がディナーセットに選ばれ、以降同シリーズは「エリザベス」と改名されます。
1974年には、名工ローレンス・ウッドハウスを招き入れると、ファインアートスタジオの設立や、1977年のトロフィーへの緻密な絵付け等によって、その才能を発揮して行きました。
以降も1981年のチャールズ皇太子とダイアナ妃の成婚や、2010年のウィリアム王子とケイト妃の成婚に際して記念作が作られるなどします。
なお、1997年からはアイルランド最古のベリーク窯と提携し、そのグループ企業となりました。