「イギリス無くして、椅子のストーリーは語れない」
これまで、ヨーロッパのウィンザーチェアから派生したさまざまなチェアを取り上げてきました。
でも実は、イギリス生まれのチェアとはまた違うユニークなチェアを生み出している国があるんです。
その国こそが「アメリカ」。
今回は18世紀後半~20世紀初頭のアメリカで生まれ、後の北欧モダンインテリアにも影響を与えた椅子、シェーカーチェアについてのお話です。
目次
シェーカー家具とは?信仰から生まれた機能的な家具
さて。そもそも、シェーカーチェアの「シェーカー」って何でしょうか。
実はシェーカーとは、イギリスの「クエーカー」から分離してできた宗教の一つなんです。(※クエーカー=17世紀イングランドにおいて、ピューリタン革命の中で発生したピューリタン的プロテスタントの一派。)
必要最低限のものだけで、自給自足の日々を送っていたとされるシェーカー教徒。自給自足の中には家具も含まれており、当時のシェーカー教徒たちによって作られた家具のことを、現在では総称して「シェーカー家具」と呼んでいます。
彼らは木材の無駄をなくし、加工がしやすいデザインであることを前提に、実用的で使い心地の良いものを追求していきました。
また、シェーカー教徒の女性は家事労働に熱心だったことから、掃除の際の動かしやすさを考慮して細い部材で軽量化を図ったのだそう。
シェーカー家具から見ることのできるこうした “使い手の眼” は、今のチェア文化にも少なからず影響を与えていることでしょう。
シェーカーチェアの特徴
シェーカーチェアのデザインには、
・シンプルで機能的
・「フィニアル」と呼ばれるキャンドル型の装飾
・「ラダーバック」と呼ばれるはしご型の背もたれ
などの特徴が挙げられます。
フィニアルとは、画像のようなチェア上部の出っ張りのこと。
今では普通に目にするデザインですが、これはシェーカーチェアを象徴する装飾なんです。
フィニアルの形状は、チェアが作られた年代などによってさまざまなタイプがあります。
ただ、大きな装飾と呼べるようなのはそれぐらいのもので、イギリスのアンティークチェアに見られるような豪華な透かし彫り入りのスプラット(背板)などはありません。
装飾をそぎ落としたシンプルなフォルムからは、シェーカー教徒の徹底的な合理性が垣間見えます。
なお、チェアの素材としてはアメリカで採れるメープルやバーチ(カバ)などが使われていました。
「ラダーバックチェア」はシェーカーチェアの代表的スタイル
両サイドの棒に対して、はしご(ladder)のように背もたれが渡された「ラダーバックチェア」。
上述の通り、かまぼこ型のラダーバックはシェーカーチェアの特徴的なデザインの一つと言われており、現在では椅子の定番デザインになっています。
近代では1902年に、スコットランドの建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュによってリデザインされた「ヒルハウス」チェアが有名ですね。
北欧デザインに見られるシェーカーチェアの影響
ところで。「シェーカーチェア」とネットで検索すると、おそらくデンマークの家具デザイナー、ボーエ・モーエンセンが1947年に発表した「J39 Shaker Chair」がヒットするかと思います。
実はこの有名なJ39チェアも、アメリカの元祖シェーカーチェアをモチーフにして作られたんです。
一般市民のための安価で質の良い家具を作ってほしいとの要求に対し、装飾を排したシェーカーチェアにインスパイアを受けてリ・デザインしたのだとか。
機能性を追及した結果生まれた、機能美とも言える洗練されたデザインは、北欧を代表する巨匠たちにも影響を与えていたんですね。
最後に
シェーカー教徒たちはチェアの販売も行い、教団運営の貴重な収入源としていたのだそうですよ。
シェーカー教の衰退によって、1965年までの間に教徒はいなくなってしまったそうですが、彼らの「物」に対するストイックな考え方は現在のミニマリズムに通ずるところがあるように思います。
見慣れた家具も、デザインの源流をたどってみるとこんな風に新しい発見があるかもしれません。