ターニングレッグとは、伝統的な家具に施される彫り飾りの一種で、回転する木材に刃物を当てながら形を形成する挽物加工によって作られます。
アンティーク家具の中で最も長い歴史を持つ装飾のひとつであり、イギリス家具の代表的なデザインとしても知られるターニングレッグ。時代や美術様式に合わせて多様にデザインを変えながら、家具を華やかに飾ってきました。
ターニングレッグの特徴
ターニングレッグの最大の特徴は、滑らかで曲面的な形状でできているという点です。
旋盤という工具に取り付けた木材を回転させながら削り出すことで、精巧で端正な形を作り出すことができます。
今となっては電気の力で旋盤を回転させることができますが、電気がなかった時代は手作業で回したり、木に巻いたストラップを引っ張ることで旋盤を回転させたり、足踏み式の旋盤回転装置を利用して挽物加工をしていました。
そうした技術を用いて美しく作られるターニングレッグは、装飾的な要素だけでなく、家具の脚としての安定性もきちんと維持しているという点も特徴のひとつです。
ターニングレッグの歴史と種類
先述のように、ターニングレッグは美術様式の移り変わりと共に華々しくデザインを変えてきました。
その中の代表的なデザインの種類として「バルボスレッグ」「ボビンターニングレッグ」「ツイストレッグ」などが挙げられます。
それぞれどのようにして生まれ、どのような特徴を持っているのか、ターニングレッグの歴史と種類を年代順に沿ってご紹介していきます。
【12-15世紀】チューダー様式/バルボスレッグ
イギリスのチューダー王朝は、ヘンリー7世に始まり、ヘンリー8世、エドワード6世、ジェーン・グレイ、メアリー1世、エリザベス1世と長い期間続きました。
この時代のチューダー様式で生まれたバルボスレッグという彫り飾りが、挽き物細工の原点といわれています。
球根型をしており、その丸みを帯びた形状から別名「パイナップルレッグ」「メロンバルブレッグ」とも呼ばれています。
この頃は華美な装飾などを施さない「カップアンドカバーレッグ」というシンプルなデザインで作られていました。
【16世紀】エリザベス様式/バルボスレッグ
時代が進みエリザベス様式になると、シンプルだったバルボスレッグの球体の部分に立体的な彫刻で装飾が施されていきました。
これは、当時イギリスの情勢が落ち着いたことで人々の暮らしが安定し、多くの人が持ち家を持つようになったことが影響しています。
家具の需要は増え、大型家具も多く作られていくようになる中で、バルボスレッグの華やかさも発展していったのです。
【17世紀】ジャコビアン様式/バルボスレッグとボビンターニングレッグ
エリザベス女王の次に即位したのがジェームズ1世。この時代にジャコビアン様式が生まれました。
それまでの豪華で煌びやかな装飾よりも、シンプルで上品な装飾が好まれるようになっていきます。丸々とした形と大振りのサイズで存在感があったバルボスレッグも、細長くスッキリしたデザインへと変化していきました。そうした中で最も人気を集めたのは花瓶型というスタイルです。
徐々に挽物細工の家具が流行るようになり、ボビンターニングレッグというデザインが誕生したのもこの時代です。
ボビンとは糸巻きのことで、糸巻きをモチーフにした球体がいくつも連なって形を成しています。
当時イギリスでは羊毛産業が盛んであったため、毛糸を巻いた糸巻きを模してこのようなデザインが生み出されました。
丸の形や大きさなどによってそれぞれデザインが異なり、その種類は多岐に渡ります。
【17世紀後期】カロリアン様式/ツイストレッグ
その後チャールズ2世が王となりカロリアン様式へと変わると、ツイストレッグという名の、クルクルと螺旋状にねじられた形状のターニングレッグが作られるようになります。
正式には「バーリー・シュガー・ツイストレッグ」と呼びますが、そのバーリーとは大麦のことを指し、当時大麦を原料として作られていた「ねじり飴」から着想したと言われています。
ねじり具合や細さなどでそれぞれ呼び名は変わり、その多彩なツイストレッグは、椅子やテーブルなどあらゆる家具に用いられました。
実はツイストレッグの原型が生まれたのは古代ローマ時代で、建築物の柱などがツイスト状で作られていました。それから長い時を経て家具にも取り入れられるようになり、17世紀の後期に人気を集めていきました。再び人気が出た理由は、挽物加工を行う装置の刃をスライドさせる技術が開発され、螺旋状に挽く作業がより安定し、複雑なデザインも作れるようになったからではないかと考えられています。
【その後】
18世紀になるとカブリオールレッグのような曲線美を活かした脚が流行したり、その後には直線的で装飾の少ない脚が好まれたり、リバイバルブームによってターニングレッグが再び注目を浴びたりと、時代と共に家具の脚デザインは様々な変化を遂げていきますが、いつの時代もターニングレッグは決して廃ることなく大切に受け継がれ、現代でもなお伝統家具の象徴として多くの人を魅了し続けています。
「バルボスレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
「ツイストレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
「カブリオールレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
ターニングレッグ家具のインテリア例
クラシカルでシックなイギリスアンティークスタイル
優雅なアフタヌーンティーが楽しめそうな気品あふれる空間が広がっています。ゴージャスなバルボスレッグからは重厚感が漂い、目を惹きます。
挿し色が映えるエレガントなヨーロッパアンティークスタイル
キャビネットやチェアの色味によって明るく上品な雰囲気に包まれています。ターニングレッグとツイストレッグの組み合わせでよりエレガントさが高まります。
心晴れやかにするシャビーシックなガーデン風スタイル
アンティークならではのシャビー感が楽しめるインテリアで、カップボードのターニングレッグがさりげなく可憐な雰囲気を作り出します。
丁寧な暮らしを紡ぐナチュラルなカントリースタイル
自然素材の魅力が活きたインテリアは気取らない雰囲気でほっこりします。テーブルやチェアに施されたターニングレッグの曲線美が空間にまろみを与えてくれます。
和と洋の良さが調和した異国情緒あふれる大正ロマンスタイル
和洋折衷な大正ロマン家具からはノスタルジーを感じます。深い色味でシックにまとまり、ターニングレッグの表情も引き締まって見えます。
ダークブラウンを基調とした上質でムーディーなスタイル
こっくりとした上質な木肌を基調とすると、グッと大人な雰囲気が醸し出されます。さりげなくあしらわれたターニングレッグが高級感を漂わせています。
民芸家具でコーディネートしたしっとり美しい和モダンスタイル
艶やかな美しい木目、重厚感のある力強いフォルムからは気高い和の風情が感じられます。ターニングレッグも貫禄を感じさせるような堂々とした佇まいです。