浮き彫りとは、木・石・金属などの平面素材に模様が浮き上がるように立体的に彫り込みを入れる彫刻技法、あるいはその技法で作られた物のことを指します。別名「レリーフ」とも呼ばれ、建築物・肖像画・硬貨・墓石・芸術作品などあらゆる分野で取り入れられてきました。アンティーク家具においてもよく見られる技法で、浮き彫りで施された装飾からは重厚で優美な雰囲気が漂います。
浮き彫りの特徴
何といっても彫刻で施された立体的な表現が最大の特徴です。立体感があることでデザインに個性や深み、重みが生まれ、家具全体の雰囲気を高めてくれます。現代では機械を用いて製造されることが多くなりましたが、機械が無い頃はノミなどの切削工具を何種類も使用して一点一点手作業で彫り上げられていたため、全てが唯一無二の逸品となります。緻密かつ丹念に彫られた浮き彫りからは、職人の高い技術や強いこだわりが窺え、手仕事ならではの味わい深さも感じ取ることができます。そうした美しい見た目だけでなく、凹凸のある手触りを楽しめるのも浮き彫りならではの魅力といえます。
浮き彫りの種類
浮き彫りの種類は、大きく2つに分けることができます。それぞれの特徴や違いについて見ていきましょう。
浅浮き彫り
素材に対して浅く彫り込むことを浅浮き彫り、もしくはローレリーフといいます。素材によく用いられているのは、とても硬い材質を持つオーク材です。立体感はそれほどないものの平面的な装飾よりは存在感が出やすく、繊細なデザインによって洗練された雰囲気を醸し出します。浅浮き彫りで施される装飾で代表的なのが、ゴシック様式の「アーチ」、薔薇をモチーフとした「チューダーローズ」、リネンのしなやかさを表現した「リネンフォールド」などです。
「リネンフォールド」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
高浮き彫り
素材に対して深く彫り込むことを高浮き彫り、もしくはハイレリーフといいます。素材には、比較的狂いが少なく加工のしやすいウォールナット材が多く使われました。奥行きがある分見た目のインパクトや迫力が増し、強調された彫刻部分によって堂々とした力強い印象を与えます。植物・動物・人物などがモチーフとなり、まるで彫刻作品のように芸術的な高浮き彫りの装飾が数多く生み出されてきました。
その他の種類
他にも、彫り込む深さや技巧によって様々な種類の表現方法が存在します。
・中浮き彫り
浅浮き彫りと高浮き彫りの中間的な深さで彫られる彫刻技法。浅浮き彫りや高浮き彫りとの明確な見分けが難しいとされています。
・超薄肉浮き彫り(スキアッチャート)
浅浮き彫りよりもさらに浅く彫られる彫刻技法で、ミリ単位で調整される表現からは絵画のような印象も受けます。
・沈み彫り(インタリオ)
浮き彫りとは対照的に、彫刻部分が背景よりも低く彫り下げられることで沈み込んだ印象を与えます。古代エジプトの壁画などでよく見かける技法です。
浮き彫りの歴史
浮き彫りの誕生
浮き彫りの技術は紀元前の時代から存在し、中世になると教会や大聖堂の装飾に取り入れられるようになり人気を博していきました。
家具の装飾として発展
浮き彫りが家具の装飾として取り入れられたのは、15世紀にイギリスを統治していたヘンリー7世によるチューダー様式からだといわれています。この時代の家具作りにはよくオーク材が用いられ、その硬い材質を活かして施されたのが「浅浮き彫り」でした。後にチャールズ2世によるカロリアン様式になるとウォールナット材の輸入が始まり、ウォールナット材の加工のしやすさから「高浮き彫り」が主流となっていきます。芸術をこよなく愛するチャールズ2世によって、フランス・オランダ・スペイン・中国趣味(シノワズリ)などの影響を受けた家具がたくさん作られました。その後も伝統的な技術やデザインは受け継がれ、浅浮き彫りと高浮き彫りを組み合わせて遠近法を表現したり、様々な素材とスタイルを使用しながら幅広い分野で発展していきました。
「シノワズリ様式」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
日本における浮き彫りの歴史
日本でも6世紀頃の飛鳥時代から仏像や建築物などに用いられてきた浮き彫り。アンティーク和家具の装飾としてもよく見かけます。浮き彫りで描かれるのは縁起を担いだ「鶴・亀・桜・松竹梅」や、運気をもたらすとされる「龍・鯉・虎」など、伝統的なモチーフがよく使われました。中でも日本で有名な木彫細工といえば「軽井沢彫り」「日光彫り」などが挙げられます。
古くから世界中で愛され親しまれてきた浮き彫りは、現代でもなおアンティーク調の家具を作る際に用いられ、さらにモダンな新しいデザインも多様に生み出されています。
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国別で見る浮き彫り家具
浮き彫りをあしらった家具は、製造国によってデザインの特徴や醸し出される雰囲気が異なります。それぞれの違いについて見ていきましょう。
イギリス
クラシカルで重厚感のあるデザインを特徴としています。そのため上品かつグッと落ち着きのある雰囲気を漂わせます。
フランス
上品さと華麗さを兼ね揃えたデザインに特徴を持ちます。細く曲線的なデザインからは優雅な雰囲気が溢れ出ています。
イタリア
高級素材を用いた芸術性の高い重厚感あるデザインが特徴で、見た目だけでなく機能性も優れている家具が多く存在します。
中国
龍や雷文など特有のモチーフを使用した豪華なデザインが特徴的です。硬い唐木に施される繊細な彫刻からは高級感が漂います。
日本
侘び寂びを感じさせる実用的でシンプルなデザインが特徴です。伝統的なモチーフを使用することでよりシックな美しさを放ちます。
浮き彫りのあるインテリア
浮き彫りを施した家具には高級感や趣があり、空間をパッと華やかに彩ります。存在感抜群の目を引くアイテムとしてインテリアを盛り上げてくれること間違いなしです。