パイクラストとはアンティークテーブルの天板に施される彫り装飾のことで、「パイクラスト=パイの皮」の名の如く天板の縁がまるでパイ生地のような波形をしています。中でもよくイギリスやフランスのアンティークテーブルに取り入れられ、現代においては頻繁には出会えない貴重な天板デザインです。
波を打ったような美しい曲線で描かれたデザインはエレガントで華やかな雰囲気を醸し出し、お部屋をパッと明るくする家具としてヨーロッパを中心に古い時代から重宝されてきました。
パイクラストの特徴
特徴その1. 天板の美しい縁デザイン
何といっても天板の縁がパイ生地のようなデザインをしているところが大きな特徴です。その滑らかで美しい彫り装飾からは、当時の家具職人の高い技術を見てとることができます。
素材には高級木材のマホガニー材がよく用いられ、その美しい木目を活かそうと一枚の木材から天板が作られることも多くありました。
ほとんどの場合天板は一枚ですが、中には二枚・三枚とサイズの異なる天板を縦に段重ねしているタイプもあります。
「マホガニー」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
特徴その2. 優雅な脚
パイクラストの天板下には、エレガントな曲線美が特徴のガブリオールレッグ(猫脚)、そして脚先にはクロウアンドボールのデザインがよく採用されています。
その他にもツイストレッグのものや、至る所に細やかな彫刻が施されたものなど、様々な技法を駆使しながら優雅な脚が作られました。
「ガブリオールレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
「クロウアンドボール」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
⇒ラフジュ工房のクロウアンドボール (クロウ&ボール)はこちら
「ツイストレッグ」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
特徴その3. 高い機能性
パイクラストテーブルは小振りなサイズで作られていることが多く、どんなシーンにも取り入れやすい造りとなっています。
天板はフラットなものもありますが、本物のパイのように縁の装飾部分が隆起しているデザインも数多くあり、そうした造りによって天板上に置かれた物の落下を防ぎやすくなります。
また、パイクラストはチルトトップテーブルに取り入れられることが多いのですが、チルトトップテーブルの特性として天板をクルクルと回転させることができる上、天板を垂直に傾けることが可能なので使用しない時は折り畳んでコンパクトに収納できます。
パイクラストの種類
一見同じように見えるパイクラストのデザインもよく見ると一つ一つに違いがあります。そして縁のデザインだけでなくレザー素材や象嵌の技法などを用いて装飾されることもあり、そのデザインの豊富さはパイクラストの大きな魅力となっています。
実際にどのようなデザインの種類があるのか、その一例を見てみましょう。
パイクラストの歴史
パイクラストテーブルは18世紀半ばにイギリスで誕生しました。もともとは来客にお茶を提供する際のティーテーブルとして作られましたが、当時お茶を振る舞えるのは中流階級以上の裕福な家だけだったので、パイクラストテーブルは地位や富の象徴でもありました。
中でもクイーン・アン様式やチッペンデール様式で作られたパイクラストテーブルが有名で、特にトライポッド(3本脚が支柱を支えるようなスタイル)の脚を持つ天板のほとんどがパイクラストのデザインで作られました。
パイクラストのデザインは素材・技法・時代によって多彩に表情を変えながら多くの人を魅了し続け、そのアンティークならではの伝統的なデザインや造りは現代でも変わらぬ人気を誇っています。
「クイーン・アン様式」について、以下でも解説しています。こちらもぜひご覧ください。
現代での使われ方
クラシカルな美しさを放つパイクラストは、お部屋に華やかさや高級感を与えることができ、小振りなサイズで機能性も高いことから現代のインテリアにも取り入れやすい優れたデザインといえます。