ミュージックキャビネットとは、その名の通り音楽に関連する楽譜やレコードなどを収納するために作られた家具のことです。楽譜やレコードを用いて音楽を楽しんでいた時代に生まれた、アンティークならでは家具といえます。今もなお数多く現存しており、その美しい見た目や優れた機能性を活かしながら、現代のインテリア空間に優雅さや高級感を与えてくれる人気のアンティーク家具です。
ミュージックキャビネットの特徴
特徴その1. 楽譜やレコードの収納に特化した造り
ミュージックキャビネットの造りには、楽譜やレコードを綺麗に効率よく収納するための工夫が見られます。
例えば、楽譜やレコードが折れ曲がったりしないよう横幅を広めに設計していたり、収納物が多く積み重なり取り出しにくくなることを防ぐため棚や引き出しの高さは低めに作られてます。数多く設けられた棚や引き出しは、音楽のジャンルに分けて収納するのに役立ちました。また、収納物が取り出しやすくなるよう引き出しを開けると前板がパタンと下がるような仕掛けになっているものもたくさんあります。
特徴その2. コンパクトサイズ
ミュージックキャビネットはコンパクトなサイズのものが多いので使いやすく、狭いスペースにも置くことができます。
コンパクトサイズでありながらも、収納物の出し入れ作業が楽にできるよう脚を付けて高さを出したタイプもよくあり、そうしたシルエットは軽やかでスタイリッシュな印象を与えます。
特徴その3. 美しく高級感あふれる木目と装飾
ミュージックキャビネットは主に上流階級の人が使用する家具であったため、マホガニー・ローズウッド・ウォールナットなどの高級木材が用いられていることがほとんどです。
美しい木目に加え、精巧な彫刻や象嵌細工といった優美な装飾を施したものも数多くあり、芸術性を高めた品はアンティーク家具としての価値も高くなります。
ミュージックキャビネットの種類
収納スタイルの種類
収納スタイルは引き出しタイプ・棚タイプ・フラップタイプなど様々あり、複数のタイプを組み合わせたものもあります。
中には引き出しに蛇腹式のシャッターが付いたもの、脚元にキャスターが付いたもの、天板の角度を変えると譜面台のようになるもの、物を置いたり作業ができるようなスペースを設けたもの、空間を広く見せるため鏡を取り付けたものなどの多機能タイプもたくさんあります。
デザインの種類
製造された国やブランドでミュージックキャビネットを見比べてみると、幅広い種類のデザインを見ることができます。
例えばイギリス製のものは重厚感のある華やかな装飾を特徴としていますが、同じイギリス製でも北欧デザインを取り入れた老舗家具メーカー「ネイサン(Nathan)社」では洗練されたシンプルなデザインで作られていたり、アメリカ製のミュージックキャビネットからはシックなカッコ良さが漂っていたりします。フランスではミュージックキャビネットの他に「ミュージックシェルフ」という棚タイプのものも多く作られ、そのエレガントで線の細いデザインからはフランスらしい優美さが感じられます。
ミュージックキャビネットの歴史
ミュージックキャビネットは18〜19世紀頃のヨーロッパに起源があるといわれています。当時の貴族にとって音楽は邸宅でただ聞いて楽しむだけのものではなく、社交場や公共の劇場での娯楽であったり、自身も作曲に取り組んだり、音楽家の創作活動を支援したりなど、様々な形で音楽文化に深い関わりを持っていました。そうした中で多様化・複雑化する音楽のアイテムを整理・収納するために作られたのがミュージックキャビネットでした。高級木材で作られ華麗な装飾を施したミュージックキャビネットは実用的かつインテリア性にも優れ、特にイギリスで人気を博します。
その後もミュージックキャビネットは様々な様式で作られていきました。クラシカルで装飾性の高い「ヴィクトリアン様式」をはじめ、曲線や植物をモチーフにしたデザインが特徴の「アール・ヌーヴォー様式」、直線的なデザインで幾何学模様を取り入れた「アール・デコ様式」、装飾を削ぎ落として機能性を重視した「ミッドセンチュリー」など、それぞれのデザインには当時の時代背景や文化が反映されました。
1920年頃になると電子音楽などが登場し、現代音楽の基礎を築いていきます。そうした音楽の発展と共にミュージックキャビネットのあり方も変わっていきますが、デザイン性や機能性に長けた、歴史的にも価値の高いミュージックキャビネットは、現代でも多くの人に愛され続けています。
現代での使われ方
ミュージックキャビネットの特殊な形状は楽譜やレコードだけでなく、新聞・書類・雑誌・小物・お皿・カトラリーなどを収納するのにもピッタリ。書斎・寝室・リビングダイニング・キッチンなど現代のあらゆるシーンで大活躍し、小振りながらもしっかりと存在感ある佇まいで情緒あふれる空間を作り出します。