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丈夫にすることは大切にすること。おしゃれな伝統工芸「刺し子」の話

日本に昔から深く根付いている思想。それは “もの” を無駄なく、できるだけ長く使い続けるということ。
そもそも日本人には「もったいない」の精神、つまり “もの” を大切に使い、使い古してダメになったものさえ、他のものに作り替えてまた使うというような、今で言うエコな暮らしを尊ぶ精神が根づいていました。その「もったいない精神」は、日本人の衣食住すべてに浸透し、伝統的なものづくりの世界においても核となっています。
長持ちする丈夫なものを。そして、見た目も美しい飽きの来ないデザインを。こうして発展したのが日本の伝統工芸なのです。衣・食・住それぞれに関わる「もったいない精神」にあふれる伝統工芸を、これから三回にわたってご紹介していきたいと思います。
今回はまずは第一回目、「衣」。東北地方が有名な「刺し子」のお話です。

藍地に白は雪国の色?

刺し子の壁掛けマット
「刺し子」って知っていますか?古くから日本に伝わる刺繍の技法で、特に東北地方、青森県津軽の「こぎん刺し」、青森県南部の「南部菱刺し」、山形県庄内の「庄内刺し子」が日本三大刺し子として有名です。
今では、雑貨や小物のおしゃれな装飾として身近な存在ですが、もともとは物が豊富になかった時代に庶民の中で生まれた、服を丈夫にするための知恵から発展した技術です。
昔の庶民の作業着として一般的だったのは、虫よけや殺菌効果のある藍染めの着物。刺し子はその藍色の布に白い糸で刺繍されるのが伝統的です。藍色に白、まるで雪国に降る新雪のようですね。

寒さを塞ぐ、こぎん刺し

こぎん刺しのデザイン
津軽で発展した「こぎん刺し」は、江戸時代、寒さの厳しい冬を乗り越えるため、着物のあたたかさと丈夫さを目的として生まれました。寒さの厳しいこの地方では、綿の栽培が出来なかったこと、そして当時の庶民は木綿の着用が禁止されていたことなどから、一年を通して麻の着物を着なければなりませんでした。
麻は、目が粗く、風をよく通す素材です。夏の暑さには適した着物ですが、北の冬を乗り切るには不向きです。津軽の女性たちは、その麻布の目を木綿の糸で塞ぎ、着物を少しでも厚く丈夫に、そしてあたたかい空気を逃がさないようにと工夫を凝らしました。それが「こぎん刺し」です。
津軽地方では、野良着(農家の人の作業着)のことを “こぎん” と呼んでいたことから、”こぎん” に “刺し” た着物を「こぎん刺し」と呼ぶようになったそうです。

青森の刺し子は「菱形」が基本

刺し子の菱文様
布を丈夫に、そして寒さをしのぐという目的だけで終わらせないのが、女性たちのおしゃれ心。目を塞ぐだけで用は足りるはずのところ、身にまとう時の美しさにも妥協をしませんでした。
津軽の「こぎん刺し」も、南部の「菱刺し」も、模様の基本は菱形。なぜ菱形か、という理由は定かでないようですが “布を隙間なく糸で埋める” には菱形が効果的だったのかもしれません。あるいは、繁殖力の強いヒシの葉がモチーフの菱は日本古来からある吉祥文様だったからでしょうか。
理由はともあれ、菱形を基本とするさまざまな、おしゃれで新しい模様を生み出してきました。雪深い北国の長い冬の夜、女性たちは新しい模様を考えるのも楽しみだったのだそうです。菱形という制限があるからこそ、新しいものが生まれた時の喜びは格別だったのかもしれません。新しい模様には可愛らしい名前を付けて、わが子のような愛おしい刺繍を、お互いに自慢し合ったとか。

人々の願いや祈りが込められた、庄内刺し子

庄内刺し子コースター
山形県庄内地方では、野良着は藍染めの木綿布が一般的でした。木綿布は麻とは違って目は細かいのですが、丈夫さはあまりありません。そこで、布をつなぎ合わせて、強度と厚みを増すために刺し子が施されるようになりました。この技法、日本版キルティングとでも言えるでしょうか。
庄内刺し子の模様は、青森のような制限はありませんが、タテ・ヨコ・ナナメで模様を作っていくという基本があります。その基本のなかで、豊作を祈る「米刺し」、魔除けの「麻の葉刺し」、商売繁盛を願う「そろばん刺し」といった人びとの願いのこもった模様が生まれました。
もともと野良着に丈夫さや保温性を高めるために生まれた刺し子は、こうして次第に赤ちゃんの産着にまで使われるようになったのです。

最後に

着物が丈夫で長持ちするように、それを着る家族が寒くないように、一目一目気の遠くなるような作業をする「刺し子」。そこに込められた愛情と、そのおしゃれなデザインを見れば、何も言わなくても、ものを大切にしようという気持ちが芽生えますね。
第二回目は「食」にまつわる、漆器についてお話ししたいと思います。どうぞお楽しみに。

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