イギリスアンティークのチェアを探していて気づくのが、背面の種類の多さ。似たようなデザインでも、ちょっと違うだけでいろいろな名前がついていることにも気づきます。
でも、ひとつひとつの名前の意味まで理解するとなると、なかなか難しいですよね。
それぞれの時代に生まれた様式や、18世紀後半イギリスで起こった産業革命の時には家具作りの可能性が大きく広がり、さまざまなタイプのデザインを持つチェアが作られました。
今回はそんな数あるデザインの中でも、知っておくと椅子選びに役立つ、イギリスアンティークチェアでよく見る背もたれのデザインの名称をご紹介します。
目次
女性的な曲線と使いやすさを追求した、スプラットバックチェア
別名クイーンアンチェアとも呼ばれるスプラットバックチェア。
お気づきだと思いますが、18世紀のアン王女時代に誕生したクイーン・アン様式の椅子で、背もたれの中央に花瓶型の透かし彫りが施されたスプラット(背板)が入っているのが最大の特徴です。
それ以前に作られていた装飾性の高い椅子と比べるとずいぶんスッキリとした印象ですが、曲線をつかった女性らしいフォルムは品が良く優雅。
また、これまで板座だった座面に初めて座面にクッションが付いた事と、装飾の少ない背もたれが背中をしっかりと支えてくれるので、ゆったりとくつろぐことができる座り心地も重視した作りです。
「実用性を重視したデザイン」と言うのも後世のイギリス家具への影響が色濃い事が分かりますね。実際、ウィンザーチェアの基本形に採用されていて、イギリスの老舗家具ブランドのアーコールでもスプラットバックチェアに似たデザインのウィンザーチェアを見る事ができますよ。
シンプルだけど上品なそのデザインは、現代の暮らしに取り入れやすいアンティークチェアとも言えますね。
正統派イギリスアンティークチェアの象徴、リボンバックチェア
背板にリボンのような透かし彫りの装飾が施されたリボンバックチェア。
様々な意匠の家具を線画で紹介するデザイン書を出版し、世界初の家具デザインナーとなったトーマス・チッペンデールの代表作のひとつです。
ロココ様式を基調にシノワズリやゴシックなど様々な要素を持つチッペンデール様式の椅子の中でも、クイーン・アン様式を継承した曲線を多く取り入れたリボンバックチェアはデザイン的に最も優れているとも言われています。
まるで本物のリボンを掛けたような美しい透かし彫りは、軽快で華麗なイメージ。リボンが重なり合っている部分は特に複雑で、当時の職人の技術力の高さに圧倒されます。
クラシックで気品高い佇まいが魅力のイギリスアンティーク家具を象徴するアンティークチェアです。
華麗な円形が美しい、メダリオンバックチェア
メダリオンバックの椅子は、円形か楕円形(卵型)の背もたれが最大の特徴。円形のフレームの中に、様々な手彫りの装飾が施されているタイプと、布が張ってあるタイプがあります。曲線が美しく、細いフレームに入った細かな装飾からもイギリスアンティークらしい優雅さを味わう事ができます。
メダリオンバックチェアは、18世紀後期の建築家兼デザイナーのアダム兄弟によって確立されたアダム様式によってデザインされました。アダム様式は、直線的な外観と明るい色調、細かく華麗な装飾で、インテリアだけでなく後の建築にも大きな影響を与えています。
座ることよりも”美しさ”に軸を置いて作られているという側面もあり、芸術品を鑑賞するように楽しむこともできます。職人による精細な透かし彫りによって、豪華さと抜け感を両立していて、置くだけで華やかな空間を作れそうですね。
審美性を追求していく中で完成された、シールドバックチェア
盾(シールド)のような形の背もたれのシールドバックチェア。18世紀後半に活躍したデザイナー、ジョージ・ヘップルホワイトが生み出したヘップルホワイト様式のデザインのひとつです。
シールドバックは、椅子の審美性を追求していく中で完成されていった形と言われています。古典様式を基本としたフォルムと豪華なシルエットながらも、無駄が無く実用性が高い事から、当時は庶民から貴族まで幅広い層で流行して使われていたそう。現代でもそのイギリスアンティークらしいシルエットから人気があるデザインです。
木に模様を彫り、色の違う木や素材をはめ込む装飾技法である、インレイ(象嵌)が施されていることが多く、その細工の細かい美しさも堪能することもできますよ。
柔らかいシルエットとアンティークらしさが詰まった、ハートバックチェア
ヘップルホワイト様式のひとつに、ハート形の背もたれもあります。
シールドバック(盾形)に似ているのですが、比較的丸みがあって優しい印象なのが特徴です。華奢なフレームの中に繊細なモチーフの装飾が収まっていて、高級感のある雰囲気を作り出しています。
ヴァイオリンなどの楽器を連想するような優雅なシルエットからも、18世紀後半のイギリスインテリアを強く感じられますね。
ジョージ・ヘップルホワイトが確立したスタイルは、デザイナーズチェアの先駆け的な存在と言われています。様々なデザイナーが群雄割拠し独自のスタイルが誕生していった中でも、現代に至るまで受け継がれ続けているデザインなだけあって、その美しさには惹き付けられものがあります。
華奢なフレームながら、しっかりとした座り心地も叶えているのがヘップルホワイト様式の魅力のひとつ。座面やアームにつながるフレームの美しさを楽しみながら、ゆったりと腰かける椅子としてお部屋に取り入れてみるのも良いかもしれません。
アンティークな歴史あるデザイン、スティックバックチェア
イギリスでもウェールズ地方や隣国アイルランドで古くから作られていた、スティックバックチェア。細い背棒(スティック)から成り立つ椅子はすべて、スティックバックデザインと言えるため、アーコールのチェアは、ほとんどすべて「スティックバックチェア」と言えるわけですね。
でも現在「スティックバック」と言うと、アーコール社が1950年代にデザインしたものを指すことが多いようです。この椅子は、一見とてもシンプルなのに、背もたれのカーブやお尻の形に削られた座面など、座り心地をしっかり確保したおしゃれ設計となっています。
現代のチェアデザインに大きな影響を与えた、ゴールドスミスチェア
ゴールドスミス(鍛冶屋)と関係があるのかと思いきや、イギリス人劇作家オリバー・ゴールドスミス氏が所有していたことによりその名がついた、ゴールドスミスチェア。
200数十年も前のアンティークなデザインなのに、現代的なセンスを感じさせてくれます。北欧家具デザイナーのハンス・ウェグナーなど、イギリスだけでなく世界的な椅子のデザインに大きな影響を与えてきました。
スティックバックチェア同様、日本では特にアーコールのものが人気になっています。背面がとても高いので、頭まであずけてゆったりリラックスできますよ。
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産業革命が躍進させた『曲げ木』技術、ベントウッドチェア
その名の通り、背面やアーム部分に『曲げ木』が使われているのが特徴的な、ベントウッドチェア。産業革命と共に、曲げ木の技術が発達し、簡単に大量生産できるようになりました。
ベントウッドチェアの第一人者と言えば、ドイツ人デザイナーのミヒャエル・トーネット。
彼の代表作『No.14』は”家具史史上、もっとも売れた椅子”と言われるほどで、アンティークのベントウッドチェアとしてよく見かける標準型となっています。
イギリスアンティーク家具でもよく見かけるベントウッドチェアですが、ほとんどがチェコなどの中欧諸国で作られたものになります。
19世紀にサロンやパーラーで大流行、バルーンバックチェア
お客様をお招きするサロン(応接室)やパーラー(客間)で使われていたバルーンバックチェア。
まるでバルーン(気球や風船)のように丸い背もたれのエレガントなデザインの椅子です。
この丸の部分、一見木の板を繰り抜いたように見えますが、よく見ると笠木(トップ)、背柱(両サイド)、背貫(腰のあたり)の4つのパーツをきっちり組み合わせる事で形を作っています。そのため、作るには高度な技術と狂いの少ない良い材を使うことが不可欠でした。
見た目だけでなく、機械で大量生産ができる時代に、高度な職人の技術・高価な材料を使って作られたバルーンバックチェアは人の目に触れるサロンやパーラーで使うのにぴったりという事で、大流行したわけです。
また、バルーン部分は丸だけでなく、楕円やかまくら形のもがあったり、笠木や貫に透かし彫りや象嵌などの装飾が入ったものもあったりと、バリエーションも豊かなのでお気に入りの一点を探す時間も楽しめますよ。
最後に
チェアの歴史を知ると見えてくる、椅子につけられた名前の由来や誕生秘話、興味深いですね。もちろんここで紹介した以外にも、コムバックチェアやボウバックチェアなどの椅子のタイプ名や、ファンバックチェアやスクロールバックチェアなどのデザイン固有の名称など、挙げたらキリがありません。
まずはいろいろな椅子を見て、お好みのものを見つけるところから始めてみても良いかもしれません。
また、背面だけでなく、脚の形やデザイン様式も気になってくるのではないでしょうか?そんな時は『イギリスアンティークチェアとは?歴史の流れと椅子の様式別デザイン』で代表的なデザインを丁寧に解説していますので、ぜひ、のぞいてみてくださいね!